ある朝、リビングでテレビの音がしました。
いつも閉まっていた部屋のドアが、少しだけ開いていたのです。
息子がリモコンを持って、ニュースを見ていました。
たったそれだけのことでも
私は胸がいっぱいになりました。
でもその直後
私は深呼吸をして、自分に言い聞かせました。
「まだ戻ったわけじゃない」
焦りや期待は、せっかく開いた心の扉を
閉ざしてしまうこともあります。
喜びを見せすぎないという優しさ
不登校児の親にとって
「動き出した瞬間」は涙が出るほどうれしいものです。
でも、その喜びをそのまま言葉にすると
子どもはすぐにプレッシャーを感じてしまう。
私は「自然に」を心がけました。
話しかけるトーンも、表情も、普段と同じ。
何もなかったように接することが
子どもにとっていちばんの安心だったのです。
進んだり戻ったりが普通
次の日、また部屋に戻ってしまうこともありました。
けれど、それは後退ではありません。
一歩進んで、半歩戻る。
それを何度も繰り返しながら
少しずつ外の世界へ感覚を慣らしていくのです。
焦らず、戻ることも「経過の一部」として受け止める
そう思えるようになってから
親の心も一緒に落ち着いていきました。
“元通り”を目指さない
不登校からの回復は
以前の姿に“戻る”ことではなく、
新しい形の「自分になる」こと。
私たち親もまた、
以前の育て方に戻る必要はありません。
いま目の前にいる子どもに合わせて、
新しい関わり方を作っていけばいいのです。
いま思うこと
「また笑ってくれた」
「少し話しかけてくれた」
そんな小さな再会を積み重ねながら、
私たちは少しずつ、親子として再出発していく。
大切なのは
動き出した瞬間を、急いで掴もうとしないこと。
その歩幅を、子ども自身に任せること。
再生は、いつも静かに始まります。
その静けさに気が付けるようになった時
私もようやく変わり始めたのです。

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